神のお告げ
2013年05月07日
ある日のこと、初等科を訪ねてきた卒業生が独り言のように呟いていました。
「なぜ垂直二等分線を引くのか分かりません。」
初めは何のことか、何を言っているのか、分かりませんでした。でも、よく話を聞いてみると、初等幾何の、
「二等辺三角形の底角が等しいことを証明せよ。」
という問題についてでした。
頂点Aの角の二等分線ADを引き、二つの三角形ABDとACD
で考えると、二辺夾角が等しいので合同であることが分かります。だから、底角Bと底角Cは等しいとなります。
このとき結果において角ADBと角ADCは等しいので直角になり、ADは辺BCの垂直二等分線であるということが分かります。
では、初めからこの垂直二等分線を証明に使えないだろうか、と考えてみます。
これが使えると話は簡単です。辺ABとACは等しく、辺BDとCDも等しい。辺ADは共通で等しい。だから、三辺が等しいので合同である、といえます。
しかし、辺BCの垂直二等分線ADは、いつでも頂点Aを通るといえるのでしょうか。不安がつきまといます。
このようにみてくると、この問題を解く鍵は補助線ADにあることが分かります。
では、この補助線ADを引くアイディアはどこから出てくるのでしょうか。
予習をしてきて、この解法をとうとうと述べている生徒に、なぜこのアイディアを思いついたのか、と訊ねても合点の行く答えは返ってきません。教科書に書いてあったから、参考書に書いてあるから、と歯切れの悪い返答だけが返ってきます。なかには、
「昔から決まっているから」
「第六感から」
「神のお告げだから」
などとうそぶく人もいます。神のお告げがないと手も足も出ないのでしょうか。
大きさを比べるとき重ね合わせてみます。右手と左手を重ね合わせて、同じ大きさであると確信するときの手法です。
二つの底角BとCを重ね合わせてみると、ぴったりと重なり合うのです。このときの折り目の線ADが補助線ADなのです。これは神のお告げではなく、日常的なアイディアの活用なのです。日常的なアイディアを生かし、自分の考えを持てる初等科生になってほしいと思います。
(「初等科だより 第227号2008」より