戸惑い
2014年03月18日
私が主管をしていたときのことです。入学式からしばらくして、Aさん(仮名)とBさん(仮名)は、行動を共にするようになりました。何をするにも一緒です。馬が合うというのでしょうか、笑いが絶えません。誰もが羨む仲です。
ところが、ある日突然、BさんはCさん(仮名)と一緒に帰って行ったのです。Aさんは戸惑いました。なぜ…、どうして…、いつも一緒に帰っていたのに…、今日も一緒に帰れると思っていたのに…。
その後、戸惑っているAさんに気づいたBさんは、ときおりAさんと帰るようになりました。二人でいるときは、いつもの笑いが絶えません。Aさんも嬉しそうです。でも、仲たがいをしたわけでもないのに、BさんはAさんと一緒にいることは珍しく、Cさんと一緒にいることが多くなりました。
そんなある日のこと、Aさんの母親から相談を受けました。あの朗らかな子が、どうしたわけか口数が少なくなり、ふさぎ込んでいる、というのです。
「何も話してくれないのです、私には。いったい何があったのでしょう。教えていただけませんか。」
と話す母親は、不安を隠しきれません。Bさんとけんかをしたのでしょうか、乱暴なことを言ったのでしょうか、お友だちにご迷惑をかけなかったでしょうか…。次々と心配事を話し出します。私としても思いあたるふしはありません。ため息だけが出てきます。そのような日々が、しばらく過ぎていきました。三人で一緒に遊んだら、いっしょに帰ったら、と言っても何ら好転する気配はありません。ため息が続きます。
ときおり聞こえてくる話し声に耳を傾けていると、思いあたることに気づきました。
Bさんは、Aさんを避けていたわけではなかったのです。中学年になり、心身が大きく成長していった多感なBさんは、いろいろなことに興味や関心を持ち始めていたのです。Cさんが持っている趣味や好奇心に引かれていったのです。少しでも長く一緒にいたいと思うようになりました。それは、Aさんの世界とはちがう世界でした。また、AさんにとってCさんの世界は、興味の薄い世界だったのです。三人の世界は、おなじではなかったのです。
初等科の六年間は、いろいろな友だちと出会い、自分の心をとおして友だちの心を理解しようとする六年間です。それが、初等科卒業後の人生の礎となります。
(「初等科だより 第255号2014」より)