突然の口頭試問
2013年08月01日
ある日の下校時、黒板に次の語句が書いてありました。漢字テストの解答でしょうか、国語授業の面影が感じられます。
・過ち ・覚める ・外す ・割く
・干す ・危うい ・究める ・結う
・厳か ・交える ・後れる ・裁つ
・辞める ・集う ・初めて ・責める
何を考えるともなく眺めていますと、突然子どもたちが挑発してきます。
「先生、読める?」
「………」
この"挑戦"は受けねばなるまい。でも、ふつうに読んではおもしろくない。私の遊び心がうずいてきます。
「人生の過(あやま)ちに目覚(ざ)めることなく、人の道を外(はず)すと、みんなに干(ほ)されてしまう。なにも危(あや)うい人生を歩むことはない。友だちとの交(まじ)わりを通して、厳(おごそ)かな人生を究(きわ)め、ほころびを結(ゆ)うのが望ましい。
………」
ひと呼吸おいて、次の台詞を考えていると、
「先生、あれ(割く)を飛ばさないで。」
なかなか手厳しい。当方の"弱点"は許してくれない。
しかし、困ったことに忘れてしまった。なんとか答えねばならない。割合や割り算に関係があるとはいえ、「わりく」でもない。結局、消去法で臨むことにします。子どもたちは、かたずをのんで待っています。
「人生を割(さ)くようなことはいけない。」
というやいなや、教室中にウォーッという歓声が響きわたり、教室内は妙な雰囲気につつまれてきました。私の"漢字読み方テスト"、やめるわけにはいかなくなったようです。
後半は、いささかやけ気味に、
「人生の後(おく)れは、裁(た)たなければいけない。さもないと、人生の楽しい集(つど)いは、辞(や)めなけれ
ばいけない。初(はじ)めての過ちであっても、みんなに責(せ)められる。」
と言い終わるやいなや、なんと拍手が起こってくるではありませんか。私は、ただ、ただ、戸惑うばかりでした。"奇妙な日本語"ですが、なんとなく口頭試問に合格したときのような、ふしぎな気持ちです。
(「私の授業記録1992」より